さようならアルルカン
シェイクスピア作「ハムレット」のTo be, or not to be…初めて知ったのは氷室冴子さんのデビュー作「さようならアルルカン」今でも衝撃的すぎて…何度よんでも打ちのめされる大好きな作品です特に表題作と「妹」が素晴らしすぎたここから派生した「シンデレラ迷宮」ですっかり心を鷲掴みにされましたランキングベスト5に入る優れた名作です当時興味の無かった文豪や名作の全てに鮮やかな色がつき、貪るようにあらゆる作品を読み出して、はては海外作品まで漁るきっかけに…枯れかけた心に心肺蘇生してくれた豊かな滋養でした本日出勤します10:00〜16:00ご用命をお待ちしてますiPhoneから送信
寄木細工のからくり箱に当ててみる
菱形の跡がついた板にピタリと当たり
横に小さくスライドした
スライドした先からは
パズルのように小気味良く
次々と板がずれる
箱が開くと中からは、予想してた通り
小さく平たい鉄の鍵が出てきた
その鍵を
祖母の言っていた箪笥に差してみると
鍵はカチンと音を立てた
何年も開かずと聞いた箪笥が開いた
中から白い貝殻や木の実、小石、
古い古銭や切手、小さなルーペが出てきた
ルーペは生前祖父が愛用していた物だ
祖父は幼い自分にあげようと
宝物を入れて待っていたのだろう
だが時計針に似たドライバーを
渡し忘れていたのだ
もしかすると箱が開かないと言い出す事を
待っていたのかもしれない
しばらく眺め、白い貝殻と
正方形の形をした鶯色の小石を
ハンカチに包んだ
祖父との内緒の宝物を持ち帰るのに
1番ふさわしい物を選ぶ
からくり箱に満足して
改めて見回した祖父の家は、
朽ち果てる早さを物語っていた
畳は荒れ、フローリングの床は劣化が目立ち
全てが主人の不在を告げていた
どことなく沈鬱な気持ちになり
箪笥にまた鍵をかけて帰り支度をした
懐かしい鉄門扉をくぐり、
祖父に別れを告げた
駅から離れた宿に着くまでに
足がすっかり濡れてしまうのを覚悟しながら
椿の垣根を歩く
途中、道をすれ違った老女が嬉しそうに
大きくなったねと声をかけてきた
聞けば近所の犬を飼っていた人らしく、
去年に犬が亡くなって寂しい限りだそうだ
頭を下げて、道を急いだ
宿に告げていた時間はとうに過ぎていた
(続く)
本日で今年最後になります
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