さようならアルルカン
シェイクスピア作「ハムレット」のTo be, or not to be…初めて知ったのは氷室冴子さんのデビュー作「さようならアルルカン」今でも衝撃的すぎて…何度よんでも打ちのめされる大好きな作品です特に表題作と「妹」が素晴らしすぎたここから派生した「シンデレラ迷宮」ですっかり心を鷲掴みにされましたランキングベスト5に入る優れた名作です当時興味の無かった文豪や名作の全てに鮮やかな色がつき、貪るようにあらゆる作品を読み出して、はては海外作品まで漁るきっかけに…枯れかけた心に心肺蘇生してくれた豊かな滋養でした本日出勤します10:00〜16:00ご用命をお待ちしてますiPhoneから送信
玄関は洋風のタイル張り、
細長く続く廊下は板張りの縁側沿いで
リビングはフローリングの洋室、
奥の祖父の部屋は畳敷の和室だった
冷え切った薄暗い部屋を
怯えながら見回して襖や押入れ、
天袋を次々に開けてみる
からくり箱を開ける手がかりになるような物は
全く見つからない
我ながらバカバカしくなってきて
思わずため息をついた
その時ふわりと祖父の気配を感じた
参道や駅など人気に酔いやすいタチで、
よく祖父の手にしがみついていた
その時のゴツゴツした硬く骨ばった指先を
握って歩くと安心したものだ
そんな祖父からはいつも
樟脳の香りがうすく漂っていた
今もまた樟脳の香りが漂っている…
ふいにきらりと光が目に入った
古めかしいダイヤル式のテレビの上に
祖父お気に入りの螺鈿作りの時計が置いてある
祖父は貝や骨を削って
ボタン飾りを作るのが上手かった
時計を眺めていたら
予備の時計針なのか時計下の引き出しから
はみ出ていることに気づいた
取り出してみると、
精密ドライバーの先端のように尖り
先が菱形になっていた
この形は見覚えのある家紋であり
からくり箱の隅に同じ跡があった
(続く)
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