知らない人
会社に勤めていた頃の話だ遅刻気味に向かった着替え室で怖かった事がある「…私、再婚するから仕事は今日でお終い」慌てて着替えている自分に向けて薄ぼんやりした表情のまま背中越しに言われたおめでとうを言うには異質で暗すぎた「尽くしてしまうの」視点の定まらない瞳でぽつりと呟く「好きになると、してあげたくなるの…」弱々しい声だった「だけど裏切られたら、どうしても許せなくて…前もそうだった」ピタリと私を見る瞳孔の小さい目で独白が続く「…裏切られたら…私許せない…」事情も何も分からないそれも全く知らない人で粟立つほど怖かった俯きがちにロッカー内の荷物を鞄に入れていた制汗スプレー、ハンドクリーム、上着、扇子、化粧ポーチ、髪留め、果物ナイフ、マスク、手袋…「…私、幸せになれると思う?」話す度に入れている手が止まる動悸、息切れに救心のCMが突如脳裏でくるくる回り出した気づけば自分の息を止めていたなんなんだ、一体返事も碌にしないで自分の机に向かった怖かったので気を紛らせようと隣のデスクの人に聞くと「…あー」それだけだったお昼休憩になり、その話を別の人にした信じられないような表情で「やば」と言われた何が怖かったかといえば誰もその女性を知らない事だ私は誰に話しかけられたのだろう今も思い出すと怖くなる月曜日出勤します10:00〜16:00ご用命をお待ちしてますiPhoneから送信